代表取締役と株主は役割の異なった立場です。代表取締役は会社を代表する人であり、株主は会社に出資して会社を保有する役割です。
大きく異なった役割ですので、代表取締役には株主ではない人が就任するケースがあります。中小企業では株主が代表取締役になるケースが多いですが、そうではないケースも多々あるのです。今回はこのような状況の意味や代表取締役が株主ではない場合の注意点について解説します。
代表取締役と株主の違い
代表取締役と株主には大きな違いがあります。これらの違いを理解できていなければ、代表取締役が株主ではない状況が理解できないでしょう。まずはそれぞれの意味について、法律的な観点を踏まえながら解説します。
代表取締役とは
代表取締役は会社の代表を担う人です。会社の経営は取締役を中心に行われ、その中でも代表権を持つ人を代表取締役と呼びます。
会社の経営を行いますので、代表取締役は「会社の全てを決定できる」と考える人がいます。しかし、実際には誤った認識で、代表取締役は会社の全てを自由に決定できるわけではありません。
あくまでも代表取締役は、株主総会や取締役会の議決結果をもとに会社運営を進める立場です。代表取締役の独断で何事も進められるのではなく、決定された内容に基づいて会社運営をするのです。
ただ、中小企業においては、代表取締役が大株主である場合が多々あります。そのため株主総会も取締役会も自分の意見が通りやすく、結果として独断で進められるようなイメージを持たれています。これはイメージであり、本来は株主総会や取締役会の結果をもとに会社を運営していくのです。
株主とは
株主が会社に出資をする役割を担う人です。株式会社は株式を発行して資金を調達します。この発行した株式を購入し、会社に対する出資者になる人が株主なのです。
株式会社に対してお金を出していますので、株主が会社の保有者となります。株式会社は所有と経営の分離という原則がありますので、株主が所有者で取締役が経営者です。株主は取締役とは違い、会社の経営に直接関わるわけではありません。
基本的には株主が出資してくれることで、会社が設立できますし取締役は会社を運営できます。そして、株主には代表取締役が会社を運営した結果利益が出れば、「配当」として利益の還元を受ける権利があります。
代表取締役が株主ではない状況
代表取締役は必ずしも株主とは限りません。株主ではない人でも代表取締役に就任できます。事実、大手の企業でも株主ではない人が代表取締役に就任するケースがあります。まずはこれがどのような状況であるのかご説明します。
株主ではない人も代表取締役になれる
現在の会社法のルールでは、株主ではない人も代表取締役に就任できます。「代表取締役の就任は株主に限る」などのルールは法律には存在していません。そのため株主総会で可決されれば株主ではない人も代表取締役になれます。
そもそも、会社法第331条1項によると、取締役の選任条件は以下のとおりです。
- 個人であること
- 成年被後見人ではないこと
これらの条件さえ満たしていれば、誰でも取締役に選任できるのです。つまり、取締役が株主であるかどうかは全く関係がありません。もし、株主では無い人が代表取締役になることに意義を唱える人が居たとしても、法律的には何ら問題はないのです。
ただ、株主ではない人を代表取締役にするためには、株主以外から適切な人を探し出してくる必要があります。これには手間がかかる場合があるのは言うまでもありません。このことから、特に中小企業では株主ではない人が代表取締役になることは限られているようです。
逆に大手企業になると、株主であるかどうかよりも「経営スキルがあるかどうか」が重要視されてきます。そのため、時間や労力を掛けてでもスキルの高い人を見つけ出し、その人を代表取締役に選出する場合があるのです。
このような場合、完全に株主ではないかは判断できないですが、間違いなく大株主ではない人が代表取締役に就任します。会社の規模などによって、株主ではない人が代表取締役に就任する選択肢をあえて取ります。
代表取締役は社長と同義ではない
株主ではない人が代表取締役になるにあたり、意識してもらいたいのは「代表取締役=社長」ではない点です。同じ立場であると理解されている人は多いですが、法律的には代表取締役と社長は同義ではありません。
代表取締役は先ほどご説明したとおり、会社の経営を中心となって行う人です。取締役が会社の経営をして、その中で中心的な役割を負うのが代表取締役です。
それに対して社長はあくまでも会社の中での役職名に過ぎません。会社法などで社長と呼ばれる役職が定義されているのではなく、あくまでも会社の中で判断しやすいように役職が付けられているだけです。そのため会社によっては、代表取締役が社長ではない可能性があります。
代表取締役が株主ではない場合の注意点
代表取締役が株主ではない場合、いくつかの注意点があります。どのような注意点があるのかについて以下でご説明していきます。
注意点1:株主から代表取締役に選出されない
大きな注意点として、株主から代表取締役に選出されない可能性が挙げられます。取締役は株主総会で決定されますので、就任案が否決される可能性があるわけです。急に代表取締役としての役割から外されるかもしれません。
特に代表取締役としての実績を挙げられていない場合、株主から信任されない可能性があります。「これから代表取締役を任せても業績は上がらない」と判断され、取締役に選出されない可能性があるのです。これは代表取締役が株主ではない大きなデメリットです。
代表取締役は社員ではありませんので、株主から代表取締役に選出されないと仕事がなくなります。自分の想定に反して代表取締役ではない状況になってしまう可能性があるのはデメリットです。
注意点2:自分の意見が通りにくい
代表取締役が株主ではないと、自分の意見が株主総会で通りにくくなります。株主総会では保有している株式のぶんだけ議決権がありますので、株主ではない人が代表取締役になると、意思表示ができなくなってしまうのです。
もし自分が十分な株式を持つ株主であれば、自分の議案は簡単に議決できます。基本的には多数決で決まりますので、多くの株式を保有していれば議決しやすくなるのです。過半数以上の株式を保有している代表取締役ならば、自分の意見を通せるのです。
逆に代表取締役が株主でないならば、このような状況にはなりません。仮に代表取締役として良い案を出したとしても、株主ではないことによって他の株主に否決されてしまう可能性があるのです。
ただ、ある程度大きな規模の企業になってくると、代表取締役が大規模な株主ではないケースが多々あります。これは発行されている株式が非常に多いことで、代表取締役が株式を保有していても大株主ではないのです。
基本的に代表取締役が株主ではないと、自分の意見が通りにくくなります。言い換えると株主ではない代表取締役を選任すれば、株主によって代表取締役の議案をよく検討できます。
注意点3:定款によっては代表取締役になれなくなる
先ほどご説明したとおり、基本的に取締役は成年被後見人ではない個人であれば誰でも選出可能です。株主総会などで選任されれば、代表取締役に就任できるのです。
ただ、会社法第331条第2項によると、非公開会社に限っては「株主から取締役を選任する旨」を定款に定められます。つまり非公開会社の場合は、定款に定めておくことによって「株主ではない人は代表取締役に就任できない」との制限を加えられます。
このような制限が加えられてしまった場合、株主ではない人は代表取締役に就任できません。定款で制限が加えられていますので、これに適さない人は代表取締役になれないのです。非公開会社ではこのように独自の制限を設けられます。
なお、非公開会社とは定款で株式の自由な売買を認めていない株式会社を指します。本来、上場しているかどうかにかかわらず株式は自由に売買できます。しかし、株式が発行する会社の定款で定められている場合は自由に売買ができず、「非公開」となるのです。
注意点4:株主ではないことがマイナス評価となる可能性がある
株主ではないことが銀行などからの評価に影響を与える可能性があります。明確な基準などが存在しているわけではありませんが、融資などに影響を与える可能性がゼロとも言い切れません。
特に中小企業では、1人の株主が多くの株式を保有している場合があります。もしこの人が代表取締役などではない株主ならば、会社の経営に対する影響を危惧されてしまうのです。 「社長の意向ではなく株主の意向で会社が左右されてしまう」との印象を持たれてしまうことで、融資にマイナス評価となるかもしれません。
また、新しく株主を募る際に代表取締役ではない大株主がいると、新しい株主にマイナスの印象を与える可能性があります。すでに大株主がいることで自分の意見が通りにくくなりますので、株式を購入してもらうモチベーションを下げてしまう可能性があるのです。
まとめ
現在の会社法では代表取締役が株主であるかどうかの制限がありません。そのため株主ではない人でも代表取締役に就任できます。事実、株主ではない人が代表取締役の株式会社はいくつも存在しています。
ただ、株主ではない人が代表取締役に就任できますが、これには注意点があります。例えば代表取締役が議決権を持っていないことで、自分の意見が通りにくいなどの問題が起こるのです。
注意点が理解できていれば、株主ではない人が代表取締役に就任するのは問題ありません。ただ、実際のところ判断に困るケースが多いでしょう。そのような場合はぜひ「経営サポートプラスアルファ」にご相談ください。株主ではない人が代表取締役に就任するにあたり、意識したいポイントを詳しく説明します。